結論:SESから自社開発への転職は、3〜5年の現場経験を「設計判断と改善履歴」に翻訳し、ポートフォリオとGitHubで補強できれば半年で十分到達できる。辞めたい理由を整理し、6ヶ月の準備計画と面接・年収・エージェント活用の使い分けを抑えれば、勢いではなく勝ち筋で動ける。
SESを辞めたい理由ランキングと対処法
「自社開発に行きたい」と漠然と考える前に、SESで感じている不満を5つに分解しておくと応募求人の優先順位が決まりやすい。理由ごとに転職市場での見え方と取るべき対処が異なるため、最初に整理しておく価値がある。
理由1:現場ガチャと客先常駐のストレス
3ヶ月から1年単位で現場が切り替わり、人間関係も技術スタックもリセットされる消耗感は、SES特有の不満として最も多い。自社開発に移ると同じプロダクトを継続して育てる前提になるため、評価軸も「短期で空気を読む力」から「設計判断とその改善履歴」へ変わる。応募書類でも案件単位の列挙ではなく、横串で語れる成果へまとめ直すことが第一歩になる。
理由2:技術が古い・スキルが伸びない
レガシーJava、VB.NET、Excel運用が中心の現場だと、業務時間内にモダンな技術へ触れる機会が少ない。これは現場ガチャの結果でもあるが、業務外でのキャッチアップ余力を確保できる職場(残業20時間以内、リモート併用可など)への乗り換えが現実解となる。「業務でやっていない技術をどう学ぶか」の質問は面接でも高確率で聞かれるため、業務外学習の習慣を先に作っておきたい。
理由3:給与が上がらない・多重下請けの構造
SESは元請けから多重下請けで受注するため、エンドユーザーが支払う単価のうち手取りに反映される割合が限定される。自社開発企業はプロダクトの粗利を直接エンジニアに分配するため、同じ実力でも年収レンジが上振れしやすい。具体的な差は後述の年収セクションで整理する。
理由4:上流に関われない・キャリアが見えない
要件定義や設計を客先や元請けが握り、自分は実装と単体テストだけというケースは少なくない。自社開発はプロダクト企画から運用までを社内で持つため、要件定義や技術選定に関わる余地が広がる。ただし入社初日から上流を任せられるわけではなく、入社後の振る舞いで信頼を積む構造は変わらない。
理由5:評価基準が不明瞭・上司との接点が薄い
客先常駐だと自社の上司と顔を合わせる機会が少なく、評価が現場リーダーの一言で決まりがちになる。自社開発に移ると評価は職能等級と目標達成度で運用される会社が増え、半年・1年単位で何を伸ばすべきかを面談で確認できる。これは長期的なキャリア設計のしやすさに直結する。
対処の共通原則:辞めたい理由を「条件」に翻訳する
5つの理由は不満として残しておくと感情に流されやすいが、求人の絞り込み条件に翻訳すれば判断が早くなる。たとえば理由1なら「リモート週3以上・1プロダクト専任」、理由2なら「主力言語がモダンスタック」、理由3なら「シリーズB以降または上場済み」、理由4なら「設計フェーズから関われる職務記述」、理由5なら「半期ごとの1on1と評価会議が定着」などへ言い換える。応募基準が明確になると、書類選考の通過率も内定後の意思決定も精度が上がる。
自社開発への転職難易度はどれくらい
結論から言うと、難易度は「未経験寄りSES→メガベンチャー級自社開発」が最も高く、「実務2〜5年SES→グロース期スタートアップや中堅自社開発」は十分現実的なレンジに収まる。IPAの「IT人材白書」では国内IT人材の偏在が長く課題視されており、事業会社側のエンジニア採用は構造的に拡大傾向が続いている。
難易度を決める4つの軸
志望企業の難易度は、求人票の条件よりも次の4軸で判断したほうがブレが少ない。
- 実務年数:開発実務2年未満は書類で落ちやすい。長期インターン経験や副業実装があれば補える。
- 使用言語と現場の近さ:求人の主言語が現場と同じならテストでの加点が大きい。違う場合はポートフォリオで穴埋めする。
- 設計判断の言語化:技術選定・障害対応・チーム改善のいずれかで「自分の判断」を語れるか。
- カルチャー適応:ドキュメント文化、PRレビュー文化、リモート前提のコミュニケーションへの慣れ。
なぜ事業会社のエンジニア採用は拡大しているのか
経済産業省の試算では、国内のIT人材は2030年に最大で約45万人が不足するとされ、特に事業会社内製化のニーズが伸長している。クラウド前提のプロダクト運営、AIや機械学習を活用したサービス開発、SaaSモデルへの転換などは、社内エンジニアが連続的に意思決定する体制でないと回しにくい。結果として、SES経由でしか開発リソースを持てなかった企業も自社採用に踏み切る流れが続いている。SES経験者にとっては、需給バランスが追い風になっている時期だと捉えてよい。
SESから自社開発に転職するロードマップ(6ヶ月計画)
勢いで応募して書類で落ち続けるパターンは、準備不足が原因であることが多い。逆算するとSES勤務を続けながらでも、半年でポートフォリオ・職務経歴書・面接対策まで仕上げられる。月単位の到達目標を持っておくと進捗管理がしやすい。
月別の到達目標
- 1ヶ月目(棚卸し):これまでの案件を「課題・打ち手・結果」のSTAR形式で5本書き出す。客先制約で社外NGの情報は数値の桁を丸めて記述する。
- 2ヶ月目(技術キャッチアップ):志望業界の主力言語(TypeScript/Go/Pythonなど)の入門〜中級書を1冊終え、簡易アプリを1本デプロイする。
- 3ヶ月目(ポートフォリオ実装):オリジナルのWebアプリをCI/CD・テスト込みで構築。READMEと設計書・運用ドキュメントを併設する。
- 4ヶ月目(書類整備とエージェント面談):職務経歴書をスカウト型サービスにも登録できる粒度で清書し、エージェント2〜3社と初回面談を実施する。
- 5ヶ月目(応募と一次面接):本命5社・実験10社を目安に並行応募。一次面接の答え方を録音して見直す。
- 6ヶ月目(最終面接と意思決定):オファー条件を年収・裁量・成長機会で比較する。在籍中の引き継ぎ計画も並行で進める。
この計画は「会社員を続けながら週10〜15時間を学習に充てる」前提で組んでいる。ハイペースで進めたい場合は1ヶ月目と2ヶ月目を並行で走らせるとよい。長くSES現場が続いてきた人ほど、最初の棚卸しに時間をかけたほうが面接の言語化が安定する。
面接で聞かれること・準備すべきこと
自社開発企業の面接は、技術力の確認に加えて「自走できるか」「チームで議論できるか」「プロダクトに当事者意識を持てるか」を測る質問が多い。代表的な質問と準備の方向を整理した。
頻出質問とねらい
- 「直近で設計判断に迷った場面と、その判断理由を教えてください」:技術選定の言語化と、トレードオフ理解の深さを測る質問。
- 「いま使っていない技術をどうキャッチアップしていますか」:学習習慣と再現性の確認。週次の学習時間と直近のアウトプットを具体的に示す。
- 「障害対応で印象に残っている案件を教えてください」:再発防止策まで含めた問題解決プロセスを聞かれる。原因・暫定対応・恒久対応で構造化する。
- 「なぜSESから自社開発に移りたいのか」:現職への不満ではなく、志望企業のプロダクトで実現したいことに置き換えて答えるのが鉄則。
- 「3年後・5年後のキャリア像」:マネジメント志向か技術スペシャリスト志向かを確認する質問。志望企業の評価制度と整合性を取って答える。
コーディングテスト・技術課題への備え
自社開発はオンライン・オフラインのコーディングテストを課す会社が多い。アルゴリズムよりも、要件理解、設計、テストの書き方を見られる傾向が強い。AtCoder茶〜緑相当の実装力を維持しつつ、模擬課題をGitHubに残して説明できる状態にしておくと安心だ。
回答の構造化テンプレート
面接の回答は、結論→背景→打ち手→結果→学びの5ステップで30秒〜90秒に収めると伝わりやすい。SES経験者は「複数現場の状況説明」に時間を取られがちなので、最初に「どの現場の・どの局面の話か」を1行で添え、本論で打ち手と結果を語る形を意識したい。録音して聞き直すと冗長さがすぐ可視化される。
ポートフォリオの作り方とGitHub整備のコツ
SES経験者は業務コードを公開できないケースが大半だ。そのため転職用のポートフォリオは「業務外で作ったWebアプリ+GitHubの整備」で評価される。目的は「採用担当が30秒で技術力と設計判断を確認できる状態」を作ることに尽きる。
ポートフォリオの要件
- 動くURLを用意する:自分のドメインまたは無料ホスティングで本番稼働させる。READMEからリンクを貼る。
- テーマは身近な課題:豪華なSaaSクローンより、自分のSES現場の不便を解決するツールの方が動機が伝わりやすい。
- テスト・CI・デプロイを含める:GitHub ActionsでCIを通し、Pull Request単位でテストが走る状態にする。
- 設計判断をREADMEに残す:採用したフレームワーク、データモデル、なぜその構成にしたかを200〜400字で記載する。
GitHubで整えるべき7項目
- プロフィールREADMEで自己紹介と技術スタックを整理する
- Pin留めリポジトリは多くて4つに絞る
- 各リポジトリのREADMEは目的・スクショ・セットアップ手順の3部構成
- コミット履歴を1機能=1コミットで整理(rebaseで適度に統合)
- Issueとプロジェクトボードで開発タスクを残す
- テストカバレッジバッジをREADMEに掲示する
- ライセンスとContributingガイドも最小限で置く
スカウト型サービスを併用するなら、職務経歴やスキル詳細の整備が選考通過率に直結する。スカウト型の動き方はIT・Webエンジニアのスカウト型転職という選択肢でも整理しているため、合わせて確認しておきたい。
年収はどう変わる?転職前後の比較
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によれば、情報処理・通信技術者の平均年収は550万円前後で推移しており、業界別では情報通信業の中でもプロダクトを保有する事業会社が上位に分布する傾向が示されている。ここに各種転職サービスのデータを重ねると、SESと自社開発の年収レンジ差は次のように整理できる。
経験年数別の年収レンジ目安
- 実務2〜3年:SES 350〜450万円/自社開発 400〜550万円
- 実務4〜6年:SES 430〜550万円/自社開発 500〜700万円
- 実務7〜10年:SES 500〜650万円/自社開発 650〜900万円(テックリードクラス)
- 実務10年以上:SES 580〜780万円/自社開発 800〜1200万円(VPoE・EM含む)
注意点として、自社開発でもアーリーステージのスタートアップは現金年収を抑えてストックオプションで補う設計が多い。安定した年収アップを狙うなら、シリーズB以降または上場済みの自社開発企業を優先する方が再現性が高い。
手取りで比べたときのインパクト
年収だけでなく、フルリモート・フレックス・副業可といった働き方の自由度が、実質的な時間あたり報酬を押し上げる。通勤に往復2時間使っている現職と、フルリモートで通勤時間ゼロの自社開発を比較すると、月20日勤務で約40時間分の差になる。これは月収換算で数万円の時給アップに相当するため、提示年収の差以上のインパクトを生む。
失敗しないための転職エージェント活用法
SESから自社開発を狙う場合、汎用の転職サイトだけでは情報量が足りない。エンジニア専門エージェント1〜2社に加えて、スカウト型サービスを並行で使う3チャンネル運用が最もコスパが高い。
エージェント選びのチェック項目
- 担当者の業界知識(過去のCTO・EMとの取引実績があるか)
- 自社開発企業の求人比率(SES案件の紹介で稼ぐタイプかを確認)
- 書類添削のフィードバック粒度(赤入れ前提か、テンプレ返しか)
- 面接後の振り返り共有(人事から温度感を引き出してくれるか)
- 退職交渉や入社日交渉のサポート姿勢
エージェント活用で得られるメリット
- 非公開求人の紹介(人気自社開発企業ほど非公開比率が高い)
- 書類・面接の客観フィードバック
- 年収交渉の代行と内定後の調整
- 複数社のスケジュール調整の代行
エージェントの選定で迷う場合は、エンジニア領域の取扱が厚いサービスを横断比較した明光キャリアパートナーズのレビュー記事を起点に、自分の年次や志望業界に合うサービスを2〜3社まで絞り込むのが効率的だ。社内SE方面に進路を検討する場合は、社内SE・上流SEへの転職ロードマップも合わせて読んでおくと、自社開発と社内SEの違いが整理しやすい。
エージェントとの初回面談で確認すること
- 担当者が直近6ヶ月で決定した自社開発案件の規模感
- SES経験者の決定実績(職務経歴書の翻訳に慣れているか)
- 面接通過率の社内データを共有してくれるか
- 不採用時の理由共有(人事から聞き出す姿勢があるか)
- 選考途中で軌道修正を提案してくれる柔軟さ
初回面談で「希望条件をひたすらヒアリングするだけ」のスタンスだった担当者は、その後の選考でも踏み込んだサポートが期待しにくい。逆に「現状の経歴では◯◯が弱い」「ここを補えばこのレンジが見える」と仮説をぶつけてくれる担当者なら、書類添削から面接対策まで一貫して頼りやすい。
よくある質問
未経験から自社開発はやはり難しいですか
SESで2年以上の実務経験があれば、未経験ではなく「実務経験者の中で自社開発初挑戦」というポジションで応募できる。完全未経験の場合は、まずSESまたは受託で実務を積みつつ、半年〜1年でポートフォリオを整え、その上で自社開発へ移る2段ジャンプが現実的だ。
業務でモダンな技術に触れていない場合の対処は
業務外学習で補うことが前提となる。週10〜15時間を確保し、TypeScript+Reactなど自社開発で頻出のスタックで小規模アプリを公開すれば、技術への適応速度を示せる。面接では「業務でなくとも、これだけ手を動かしている」という事実を見せれば十分通る。
ポートフォリオは何個必要ですか
数より深さが重視される。完成度の高いアプリ1〜2本+設計判断を語れるREADMEで足りる。よくある失敗は、似たCRUDアプリを3本作って薄く見せること。「自分の現場の課題を解いた」と語れるテーマを1本選び、設計・テスト・運用まで責任を持つほうが評価される。
退職交渉でトラブルになりそうで不安です
SESは案件途中の離脱を嫌う構造があるため、退職時期は2〜3ヶ月前に伝え、案件の区切りに合わせる調整を提案するとスムーズだ。引き継ぎ計画と後任候補の準備に協力する姿勢を見せれば、強引な引き止めや交渉決裂は起きにくい。
年齢的に30代後半でも自社開発を狙えますか
狙える。30代後半以降はマネジメント経験、テックリード経験、プロダクト改善実績のいずれかが武器になる。「個人プレーで高速に手を動かす若手」とは別カテゴリで採用されるため、過去案件のリーダー経験を棚卸しすると応募の幅が広がる。
エージェントは何社くらい並行すべきですか
エンジニア特化2社+スカウト型1〜2サービスが目安。多すぎると日程調整が破綻し、少なすぎると比較材料が足りない。担当者との相性を初回面談で見極め、合わない場合は早めに別担当への変更を依頼するか、別社に切り替える判断もしておきたい。
在籍中の準備で意識したい3つの動き
本業を続けながら転職活動を進める場合、現職での評価を落とさずに動くことが意外と大事になる。第一に、案件途中での突然の離脱は引き止め交渉を長引かせるため、退職意思を伝えるタイミングは区切りの2〜3ヶ月前に絞る。第二に、社内のSlackや勤怠ツールで転職活動の痕跡を残さないことを徹底する。第三に、現職での障害対応や改善実績はリアルタイムでメモを残し、退職時の引き継ぎ資料と転職用の職務経歴書の両方に活用する。これらを意識すると、退職時のトラブルが減り、応募書類の解像度も上がる。
まとめ:最初の一歩は棚卸しから
SESから自社開発への転職は、辞めたい理由を5つに分解して志望先の選び方を決め、6ヶ月の棚卸し・キャッチアップ・応募サイクルを走らせれば現実的な選択肢に変わる。最初の1ヶ月で過去案件をSTAR形式に整理するだけでも、面接で語れるエピソードの密度は大きく変わる。準備の質が応募の通過率を決めるため、勢いで応募する前に棚卸しから始めるのが近道だ。
参考文献
- 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)「IT人材白書」
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
- 経済産業省「IT分野における人材育成・確保に向けた政策」
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