設計事務所からゼネコン・組織設計事務所への転職完全ガイド|年収アップと働き方比較

📅 公開: 2026-06-27 / 更新: 2026-06-27⏱️ 読了目安: 16分✍️ ENWELL WORKS 編集部
この記事の結論アトリエ系設計事務所からゼネコン設計部・組織設計事務所への転職は、年収100万〜300万円アップが現実的に見込める王道ルートだ。求められるのは「実施設計図面を最後まで描き切った経験」「法規・構造・設備の基礎知識」「複数案件を並行管理した実務感覚」の3点で、ポートフォリオでは意匠だけでなく実施段階の図面と工程写真を揃えることが選考突破の鍵となる。

アトリエ系設計事務所で30歳を迎える頃に多くの建築士が立ち止まる。「このまま続けて年収はいくらになるのか」「家庭を持ったら今の働き方を維持できるのか」「組織設計事務所やゼネコン設計部に移れば本当にラクになるのか」。本記事では、設計事務所3類型の構造的な違い、職位・経験別の年収相場、労働時間の実態、ゼネコン転職で求められるスキルと経験、ポートフォリオの作り方、面接対策、未経験から組織設計事務所を狙う場合の現実、転職後のキャリアパス、会社選びのチェックポイントまで、公的統計と業界団体の公開データを踏まえて整理する。

アトリエ系設計事務所 vs 大手組織設計事務所 vs ゼネコン設計部の違い

建築設計の働き場所は大きく「アトリエ系設計事務所」「組織設計事務所」「ゼネコン設計部」の3類型に分かれる。同じ「建築士」という肩書きでも、扱う案件の規模、設計プロセスでの役割、給与構造、評価軸が大きく異なる。転職を考える前にこの3類型の違いを構造的に押さえておくと、求人票の見え方も面接での自分の言葉も変わってくる。

アトリエ系設計事務所の特徴

アトリエ系は、所長建築士の作家性を中心に据えた小規模事務所が中心で、所員数は1〜15名程度のところが大多数を占める。住宅・店舗・小規模公共施設・リノベーションが主戦場で、意匠の自由度と素材選定の深さを売りにする。スタッフは1人で意匠から実施図、現場監理までを一気通貫で担当することが多く、設計者としての引き出しは深くなりやすい。一方、給与水準は業界の中で最も低く、長時間労働も常態化しやすい構造を抱える。

大手組織設計事務所の特徴

組織設計事務所は、意匠・構造・設備・電気・ランドスケープ・施工監理など職能別の専門部署を持ち、数十名〜数千名規模で運営される設計組織だ。日本建築設計監理協会(日設協)が公開する会員名簿からも、専門性が縦割りで蓄積された巨大組織であることが分かる。扱う案件は超高層オフィス、再開発、文化施設、医療施設、官公庁施設、大学キャンパスなどスケールが大きく、社会的影響度の高いプロジェクトに関わる機会が多い。意匠担当者でも構造・設備・コスト・確認申請など全方位の関係者と協働するため、調整能力とドキュメント力が問われる。

ゼネコン設計部の特徴

ゼネコン設計部は、施工部門を社内に持つ建設会社の内部組織として、設計と施工を一体提案する「デザインビルド」の主担当を担う。スーパーゼネコン(鹿島・大成・大林・清水・竹中)と準大手・中堅ゼネコンを合わせると、設計部の建築士数は組織設計事務所と肩を並べる規模感になる。発注者と施工部門を同じ社内で結びつけるため、コストとスケジュール感覚が他類型よりもシビアに磨かれる。意匠の自由度は組織設計事務所に劣るが、工事費・工法・工程の3要素を一気通貫で語れる設計者として成長できるのが最大の強みだ。

3類型の構造比較

区分 規模 主な案件 強み 弱み
アトリエ系設計事務所 1〜15名 住宅/店舗/リノベ/小規模公共 意匠の自由度/作家性 低年収/長時間労働
大手組織設計事務所 数百〜数千名 超高層/再開発/文化/医療 大規模案件/専門性の蓄積 分業による狭い担当範囲
ゼネコン設計部 数百〜千名超 デザインビルド/自社受注案件 設計施工一体/コスト感覚 意匠の制約/施工側の発言力

※規模は2024〜2025年の各社公表値と業界団体公開資料から概算。

年収相場(事務所種類別・経験別比較表)

厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」によると、建築技術者(事業所規模10人以上)の平均年収は約600万円で、男性平均約630万円、女性平均約500万円。ただしこれは建築技術者全体の平均で、設計事務所だけに絞ると下振れし、ゼネコン設計部や大手組織設計事務所では平均を大きく上回る。下表は業界各社の公開IR・有価証券報告書・求人市場の中央値から組み立てた現実的な目安だ。

事務所種類別・経験別の年収目安

区分 20代後半 30代 40代 備考
アトリエ系(所員10名以下) 320万〜400万円 400万〜500万円 500万〜650万円 賞与なし/みなし残業多い
アトリエ系(所員10〜30名) 380万〜450万円 450万〜600万円 600万〜800万円 所長案件比率次第で差大
中堅組織設計事務所 450万〜550万円 600万〜800万円 800万〜1,100万円 賞与3〜4か月+残業手当
大手組織設計事務所 500万〜600万円 700万〜950万円 1,000万〜1,400万円 賞与4〜6か月+住宅手当
準大手・中堅ゼネコン設計部 480万〜580万円 650万〜850万円 900万〜1,200万円 賞与4〜5か月/現場手当あり
スーパーゼネコン設計部 550万〜650万円 800万〜1,050万円 1,100万〜1,500万円 賞与5〜7か月/福利厚生厚い

アトリエ系設計事務所から組織設計事務所・ゼネコン設計部に移ると、20代後半で年収100万〜200万円、30代で200万〜400万円のアップが現実的に見込める。年収アップ幅が大きく見える背景には、基本給そのものの違いだけでなく、賞与の年間支給月数(アトリエ系では賞与ゼロも珍しくない)、残業手当の支給形態(みなしではなく実績精算)、住宅手当・通勤手当・確定拠出年金の有無といった福利厚生の差が積み重なっている。

一級建築士の資格手当の目安

区分 資格手当(月額) 取得祝金
アトリエ系 0〜2万円 0〜10万円
組織設計事務所 2万〜3万円 10万〜30万円
ゼネコン設計部 2万〜5万円 20万〜50万円

建築士のキャリア設計全般や、職位別の年収推移については関連記事の建築士のキャリアパス完全ガイドでより詳しく整理している。設計事務所からゼネコン全体への転職事情はゼネコン転職完全ガイドを併読すると視野が広がる。

働き方・労働時間の実態比較

労働時間の実態は、年収以上に転職検討の動機になっている。日本建築士会連合会が会員向けに行ってきた就労実態調査や、各設計関連団体が公表している労働時間データを横断すると、アトリエ系の長時間労働は構造的なもので、組織設計事務所・ゼネコン設計部に移ると平均労働時間は明確に短くなる。ただし、年に数回の繁忙期や竣工前の集中残業はどの類型でも避けられない。

アトリエ系の実態

アトリエ系は、所長との距離が近い分、案件の山谷がスタッフの労働時間に直撃しやすい。コンペ提出前、確認申請前、竣工前は深夜残業・土日出勤が常態化することが多い。月平均残業時間は60〜100時間に達する事務所も少なくなく、慢性的な長時間労働がスタッフの離職要因になっている。一方、案件と案件のあいだに緩い期間が挟まることもあり、自主課題やコンペ応募に時間を割ける自由は他類型より大きい。

組織設計事務所の実態

組織設計事務所では、36協定と労使協定で残業時間上限を厳しく管理しており、月平均残業は20〜45時間に収まるところが多い。意匠・構造・設備が分業されているため、ピーク負荷もチーム内で平準化されやすい。深夜残業や土日出勤は繁忙期に限られ、有給休暇取得率も7〜8割に達する事務所が中堅以上では一般的になっている。育児休業からの復帰率も高く、長期的に働きやすい環境が整っている。

ゼネコン設計部の実態

ゼネコン設計部は、建設業全体に適用された時間外労働の上限規制(いわゆる2024年4月施行の建設業の働き方改革)を受けて、労働時間管理が急速に厳格化した。月平均残業は30〜50時間程度で、組織設計事務所より若干長めだが、アトリエ系と比較すれば大幅に短い。施工現場との往復が発生する分、移動時間の扱いや出張頻度は人によって差が出る。週休2日制が現場ベースでも導入されつつあり、設計部勤務であれば原則カレンダー通りの休日が取れる体制が整いつつある。

3類型の労働時間と休日

区分 月平均残業 休日取得 有給取得率 育休復帰率
アトリエ系 60〜100時間 週1〜1.5日 3〜5割 低い/属人的
中堅組織設計事務所 25〜45時間 週2日+祝 6〜7割 6〜8割
大手組織設計事務所 20〜40時間 週2日+祝 7〜8割 8〜9割
ゼネコン設計部 30〜50時間 週2日+祝 6〜7割 7〜8割

※各社のサステナビリティ報告書・有価証券報告書・厚労省「就労条件総合調査」を踏まえた実勢値。

ゼネコン転職で求められるスキル・経験

ゼネコン設計部の中途採用で評価されるのは「意匠の発想力」より「実施図面を最後まで描き切った経験」「法規・構造・設備を横断する基礎知識」「コスト感覚」「複数案件を並行管理した実務感覚」の4点だ。アトリエ系で意匠中心の働き方をしていた建築士が転職活動に詰まる典型的な原因は、実施図面と法規対応の経験が薄いことに集約される。

実施図面の経験

基本設計だけでなく、実施設計図面(平面詳細図・断面詳細図・矩計図・建具表・仕上表)を一通り自分で描き切った経験が問われる。施工者が読める図面、現場での質疑応答に耐えうる図面を描けることが採用側の判断軸になる。アトリエ系では実施を外注している事務所もあり、その場合は応募前に実施段階に関与した案件を1〜2件は手元に揃えておきたい。

法規対応の経験

確認申請、用途地域・容積率・斜線制限のチェック、防火・避難規定、バリアフリー条例、省エネ基準(建築物省エネ法)の適合義務化への対応など、法規対応の経験は必須レベルで評価される。2025年4月以降は省エネ基準適合義務の対象が原則すべての新築建築物に拡大されており、省エネ計算・一次エネ消費量計算の実務経験は採用側にとって即戦力要素になる。

構造・設備との協働経験

構造設計者、設備設計者、ランドスケープ設計者と協働して案件を進めた経験は、組織設計事務所・ゼネコン設計部のいずれでも歓迎される。アトリエ系で意匠一辺倒だった場合、面接で「構造担当とどのように意匠調整したか」「設備ルートをどう意匠に取り込んだか」を語れるよう、過去案件を棚卸ししておきたい。

コスト感覚と工程管理

ゼネコン設計部では特に、工事費・工程・工法を意匠と同列で議論することが日常になる。コスト概算の経験、VE(バリューエンジニアリング)提案の経験、施工図と意匠図の差分管理の経験は、面接で具体に語れると評価が一段上がる。組織設計事務所でも、コスト管理を案件初期から組み込む文化が定着しており、コスト感覚は両類型で共通の評価項目だ。

資格・ソフトの保有

一級建築士は組織設計事務所・ゼネコン設計部のいずれでも基本要件として扱われる。30代以降の中途採用では、構造設計一級建築士・設備設計一級建築士のいずれかを保有していると評価が上振れる。CADはAutoCADとVectorworksに加え、BIM(Revit・ArchiCAD)の実務経験が問われる場面が増えている。BIMの導入率は組織設計事務所・スーパーゼネコンで急速に高まっており、Revitの操作経験はそれ自体が選考通過の決め手になり得る。

ポートフォリオの作り方と面接対策

転職活動の合否はポートフォリオでほぼ決まる。アトリエ系出身者が陥りがちな失敗は、模型写真とパースに偏重し、図面と工程の情報量が足りないこと。組織設計事務所・ゼネコン設計部の採用側が見たいのは「この人と一緒に仕事ができるか」を判断するための実務情報だ。

ポートフォリオの基本構成

A3横サイズ・全15〜25ページが目安。表紙、自己紹介(経歴・資格・受賞歴・ソフト習熟度)、案件3〜6本、技術的に語れるテーマ(省エネ・BIM・木造ハイブリッド等)、最後に職務経歴の一覧という構成が標準的だ。案件は新しい順に並べるよりも、自信を持って語れる案件を最初の1本に置き、その案件で「企画→基本設計→実施設計→現場監理→竣工」のどこを担当したかを明示する。

1案件あたりの掲載情報

1案件につき2〜4ページが目安。掲載内容は、概要(用途・規模・延床面積・構造・所在地・竣工年)、コンセプト、配置図・平面図・断面図、意匠的に工夫した部分の詳細図、ディテール写真、現場時の工程写真、自分の役割と関与範囲、設計上の苦労と解決方法。実施設計まで担当した案件では、矩計図や建具表の抜粋を1ページ加えると、実施スキルの説得力が増す。

面接で問われる頻出質問

面接では「なぜ転職するのか」「なぜ当社か」「最も力を入れた案件は」「失敗したことと学び」「5年後・10年後のキャリアイメージ」「コスト管理の経験」「BIMの経験」「チームでの協働経験」「希望年収と最低年収」が頻出する。アトリエ系出身者は特に「意匠のこだわりとコスト・工期の折り合いをどうつけたか」を具体エピソードで語れる準備が必要だ。年収希望は転職市場の相場と自分の経験年数を踏まえて、レンジで答えると角が立たない。

転職エージェントの活用

組織設計事務所・ゼネコン設計部の中途求人は、転職エージェント経由の非公開求人が大半を占める。建築・建設業界に強みを持つエージェント、設計職特化型のエージェント、ハイクラス向けのエージェントを2〜3社併用するのが現実解だ。担当エージェントには、面接対策・ポートフォリオレビュー・年収交渉まで遠慮なく依頼したい。

未経験から組織設計事務所への可能性

「未経験から組織設計事務所」と一口に言っても、3つのパターンが存在する。それぞれ難易度と現実性が大きく異なる。

建築設計未経験(他職種から)

大学・大学院で建築を学んでいない、または建築学科出身でも一度も設計実務についていない場合、組織設計事務所への中途採用ハードルは非常に高い。新卒採用ではポテンシャルで評価されるが、中途では基本的に即戦力人材を求めるため、未経験は施工管理職や確認検査機関・行政の建築職など別ルートから始めるのが現実的だ。施工管理職からのキャリアチェンジについては施工管理職のキャリアパス完全ガイドを参照してほしい。

設計事務所での実務経験はあるが組織未経験

アトリエ系・住宅メーカー・確認検査機関などで設計実務を3年以上積んでいれば、組織設計事務所への中途採用は十分に現実的だ。30代前半までであれば、即戦力として意匠職に応募でき、30代後半以降は実施設計または企画系のスペシャリストとしての応募が中心になる。

ゼネコン施工管理から設計部への内部・社外転職

ゼネコン施工管理経験者が同社の設計部へ社内異動するルート、あるいは別のゼネコン設計部・組織設計事務所へ社外転職するルートが存在する。施工と設計の両方を知る人材は希少価値が高く、特に40代の中堅クラスでは年収アップを伴う転職が実現しやすい。一級建築士を保有していることが条件として求められる場面が多い。

キャリアパスの選択肢

アトリエ系からの転職後のキャリアパスは、「組織設計事務所で意匠・実施のプロを目指す」「ゼネコン設計部でデザインビルドのスペシャリストを目指す」「将来の独立を視野に組織で経験を厚くする」「設計監理から建築プロデュース・事業企画へ広げる」の4方向に整理できる。

組織設計事務所の意匠職としての縦のキャリア

主任設計者から、案件責任者(プロジェクトリーダー)、部門長、本部長、執行役員へと上がる縦のキャリアが基本軸となる。大規模案件の経験を積み、超高層・再開発・文化施設のリーダーを担うようになると、年収は40代で1,200万円〜1,500万円、50代では1,500万円〜2,000万円超のレンジに乗ることもある。

ゼネコン設計部でのデザインビルド領域

ゼネコン設計部では、自社施工部門と一体で動く案件責任者として、コスト・工程・工法・意匠の4要素を統合的にデザインする立場に成長できる。物件規模が大きく、海外案件の比率も増えてきているため、海外駐在の機会を得ることも可能だ。一級建築士+構造設計一級建築士の二重資格者は、特に大規模案件のリーダーに登用されやすい。

将来の独立を視野に組織で経験を厚くする

組織設計事務所・ゼネコン設計部で10〜15年の実務経験を積み、コスト・法規・施工の三位一体を語れる建築士となってから独立する道は、近年特に増えている。所長の作家性を売りにする従来型のアトリエ独立より、複数の自治体・事業者からの案件を継続的に受託する「事業者寄り独立」が現実的な姿だ。

建築プロデュース・事業企画への横展開

不動産デベロッパーの設計企画部門、施設運営会社の建築担当、官公庁の建築技術職、PFI事業のSPC人材、PM・CMファーム、コンサルティング会社の建築アドバイザーといった隣接領域への転身も視野に入る。意匠+コスト+発注者視点の3点が揃った建築士は、これらの隣接領域で重宝される。

会社選びチェックポイント

設計事務所・ゼネコン設計部の会社選びでは、年収と知名度に目が向きがちだが、入社後の働きやすさと長期キャリアを決める要素は別にある。下表は応募前に必ず確認したい8つのチェックポイントだ。

会社選びで確認したい8つの観点

確認項目 見るべき具体ポイント
案件構成 意匠・実施・監理のうち、自分が担当できる範囲はどこか
BIM導入度 Revit・ArchiCADの実務利用率/教育体制
賃金構造 基本給比率/賞与年間支給月数/資格手当/残業手当の実績精算有無
労働時間 月平均残業/繁忙期の上限/みなし残業の有無と時間
休日制度 完全週休2日/祝日/夏季・年末年始の連続休暇
育休・産休 取得率/復帰率/時短勤務の利用実績
研修・資格支援 一級建築士/構造一級/設備一級の取得支援
離職率と定着率 入社3年・5年の定着率/設計部の平均勤続年数

転職エージェントを通じてヒアリングできる項目もあるが、最終面談・内定面談の段階で人事・現場責任者に直接確認することも遠慮しないでよい。特に労働時間とみなし残業の扱いは、入社後のミスマッチが最も起きやすい領域なので、口頭ベースではなく就業規則・賃金規程の文面で確認したい。

よくある質問

Q. 一級建築士を持っていないとゼネコン設計部への転職は無理ですか

不可能ではないが、書類選考の通過率は明確に下がる。30代以降の中途採用では、一級建築士の保有が事実上の前提条件として扱われる求人が大多数を占める。二級建築士保有・実務経験4年以上であれば、入社後の取得を前提とした採用枠が残るゼネコンもあるため、応募時に「2年以内に取得予定」と明示するとよい。資格取得支援制度(受験対策講座費用補助・合格祝金)が整っているかも応募先選定の判断材料になる。

Q. アトリエ系での意匠経験は組織設計事務所で評価されますか

意匠の発想力・素材選定の引き出し・図面の繊細さは確かに評価される。一方で、組織設計事務所の中途採用で重視されるのは「実施設計の経験」「法規対応の経験」「コスト感覚」「複数案件並行管理の経験」の4点で、これらの実績が薄いと意匠力単体では選考通過が難しい。アトリエ系時代に意匠中心だった場合、応募までに実施案件を1〜2件は手元に揃え、ポートフォリオで実施段階の図面を見せられる準備をしたい。

Q. 30代後半から大手組織設計事務所への転職は現実的ですか

30代後半は、組織設計事務所の中途採用市場でも現実的なターゲット層だ。即戦力として実施設計責任者・案件マネジメントを担えることが条件になり、過去案件のリーダー経験を職務経歴書とポートフォリオで明確に示せれば、内定獲得は十分可能だ。40代に入ると、技術スペシャリスト枠(構造・設備・BIM・省エネ等)や、プロジェクトマネジメント特化型の中途採用枠での応募が中心になる。

Q. ゼネコン設計部はやはり施工部門の発言力が強いと聞きますが本当ですか

事実だ。ゼネコンは施工が本業のため、設計部のアウトプットは「自社施工で実現できる範囲」「自社のコスト構造で収まる範囲」に縛られる場面が多い。意匠の自由度を最重視する場合は組織設計事務所のほうが向く。一方、設計と施工の対話を通じてリアリティのある建築を生み出したい設計者には、ゼネコン設計部は得難い学びの場になる。デザインビルド案件が中心の中堅ゼネコンでは、設計の主導権が比較的強く保たれている例もある。

Q. BIMの実務経験がないとゼネコン・組織設計事務所への転職は厳しいですか

BIM未経験でも入社後の習得を前提に採用される事務所はまだ多いが、Revit・ArchiCADの基本操作経験があれば書類通過率が一段上がる。スーパーゼネコンと大手組織設計事務所ではBIM導入率が高く、実務利用が前提となっている部門もある。応募前に独学でBIMの基礎操作を学び、ポートフォリオで「BIM活用案件」を1本でも示せると、転職活動を有利に進められる。

Q. アトリエ系から大手組織設計事務所への転職で年収はどのくらい上がりますか

20代後半で年収100万〜200万円、30代で200万〜400万円のアップが現実的な目安だ。アップ幅が大きい背景には、基本給そのものの差に加えて、賞与年間4〜6か月分の上乗せ、残業手当の実績精算化、住宅手当・通勤手当・確定拠出年金の福利厚生が重なる。入社後5〜10年で家を持つ・子どもを育てるといったライフプランを描けるレンジに乗りやすくなる。

Q. 将来独立を考えていますが、組織設計事務所・ゼネコン設計部での経験は独立に有利ですか

有利だ。特にゼネコン設計部での10年経験は、コスト・工法・工程を一気通貫で語れる独立建築士を育てる土壌になる。組織設計事務所での経験は、超高層・再開発・文化施設の意匠・実施・監理を通じて、独立後に大規模案件を取れる人脈と実績を作る舞台になる。アトリエ系での10年が「作家性」の鍛え場であるのに対し、組織・ゼネコンでの10年は「事業者と組める建築士」の鍛え場と捉えるとよい。

まとめ

アトリエ系設計事務所からゼネコン設計部・組織設計事務所への転職は、年収100万〜400万円のアップと労働時間の大幅な改善が現実的に見込める王道ルートだ。求められるのは意匠の発想力よりも、実施設計を最後まで描き切った経験、法規・構造・設備を横断する基礎知識、コスト感覚、複数案件並行管理の実務感覚の4点で、ポートフォリオではこの4点を示せる構成を心がけたい。

アトリエ系・組織設計事務所・ゼネコン設計部の3類型は、案件規模・分業度・収益構造・労働時間・キャリアパスのすべてで構造的に異なる。自分が建築士として何を伸ばしたいか、何を生活上の優先順位に置くかで、向き不向きが大きく変わる。年収と知名度だけで選ばず、案件構成・BIM導入度・労働時間・休日制度・育休復帰率・研修体制・離職率の8観点で会社を比較したい。

建築士としてのキャリア全体像、施工管理職とのキャリア比較、ゼネコン全体への転職市場については、関連記事の建築士のキャリアパス完全ガイド施工管理職のキャリアパス完全ガイドゼネコン転職完全ガイドを併せて参照してほしい。

参考文献

  • 厚生労働省「賃金構造基本統計調査(令和6年)」
  • 厚生労働省「就労条件総合調査」
  • 公益社団法人 日本建築士会連合会 各種就労実態調査・会員データ
  • 一般社団法人 日本建築設計監理協会(日設協)会員名簿・公表資料
  • 国土交通省「建築物省エネ法」関連告示および2025年4月施行の適合義務化資料
  • 厚生労働省「建設業の働き方改革に関する通達(時間外労働の上限規制)」
  • 各社(鹿島建設・大成建設・大林組・清水建設・竹中工務店・日建設計・日本設計・三菱地所設計・梓設計 ほか)IR・有価証券報告書・サステナビリティ報告書(2024〜2025年公表)